春のドライブでいちばん季節感を楽しめる『時間』
春を肌で感じる
冬から春に移ろう季節の変わり目は、待ち遠しい春がやってくる期待に心躍る喜びもあれば、まだまだ名残惜しい冬がもう過ぎ去っていってしまうという寂しさが入り混じった複雑な季節でもある。2月も中旬に入ると、とくに日中ともあれば、春の陽気を思わせる暖かさに冬の終わりを実感する日もあったりする。これまでしっかり点けていた暖房の設定も、この日だけは電源をオフにしたり、さらには勢い余って冷房を点ける日さえある。明るめの色づかいをしたトレンチコートやバッグや靴など、その変化は服装にも現れる。まさに春を肌で感じる瞬間である。
だが、この季節の移り変わりを一番に感じるシーンは別にある。それは、ドライブだ。ドライブの最中はもちろんなのだが、車を停車して風に当たりながら一休みするときの瞬間がそれである。そして、その時間帯も肝心な要素のひとつだ。世の中が一日の活動を終えようとしている夜、それも22時あたりから始まる「空気が一日の中で一番心地よい風を流す時間」なのだ。
天候は当然「晴れ」。この条件を満たす日こそ、冬から春にかけて移ろう季節の変わり目を、一番に楽しめる絶好のドライブ日和だ。
気温は多少の前後があっても良いのだが、厚手のコートやダウンジャケットを着て、寒いと感じる気温ではなかなか楽しめるとは程遠い。ベストは10℃~15℃あたりが最も適温で、薄手のジャケットやトレントコートを羽織り、ちょっと涼しいかなというくらいが狙いたいポイントだ。10分ほど外で風に当たりながら一休みしていても、身体が冷えないくらいの気温が良いだろう。少し肌寒い時は、ホットドリンクで温まるのも悪くはない。場所は公園でも良し、観光スポットでも良し、または夜の海なんかも良い。思い思いの場所や、その時ふと思いついた場所など、自分が行きたいと思った場所が一番なのだろう。
冬服ではなく春の服装で、「少し寒いかな」というくらいが最も四季のめぐりを楽しめる状況だろう。
一日の始まりと一日の終わり
夜のドライブの良いところは、なんといっても交通量の少なさ。そして、日中とは異なる顔を見せてくれる街の光景。静まり返った街並みが、まるで自分だけに与えられた別世界のようにも感じさせてくれる。個を感じる唯一の瞬間でもある。信号の点滅も、ひとつひとつのモーションのリズムを見入るかのように、ゆっくりと眺めることができる。これも、この時間ならではの醍醐味ではないだろうか。
そうこうしているうちに、夜もどんどんと更けていく。大多数の人たちが一日の活動を終え、眠りに就こうとするこの時間帯は、確かに一日の終わりなのかもしれない。しかし、ライフサイクルの異なる人や、変則的な仕事をされている方にとっては、一日の始まりの時間であることも違いない。ある人にとってそれは一般的な認識でも、また別の人にとってはそれが一般的な認識とは限らない。正解か不正解かではなく、四角か三角かという次元の話しである。立場によって、その認識は180℃変わってくるのだ。
『夜明け前が一番暗い』
こんな言葉を聞いたことはないだろうか。The darkest hour is always just before the dawn.の和訳である。この言葉の真意を確かめるべく、夜明けを待つことにした。日の出の時刻を調べておき、東の方角を確認。日の出の時刻が近づくにつれて、東の空が明るくなり始めた。それと同時に西の空を見ると、まだ真っ暗なままだ。日の出の時刻はまだなのだが、東の空は割と明るい。まるで夕暮れ時のそれと似ている気もする。太陽が顔を覗かせるその瞬間、時計を見ると日の出の時刻だ。夜明け前は、むしろ明るかった。もっと言えば、日の出の時刻の約1時間ほど前が、一番暗かったようにも思えた。
実はこの言葉、イギリスの諺(ことわざ)から来ているようだ。
「困難に直面したとき、そこからどんなに抜け出そうとしても状況が悪化していくことがある。これ以上無いほど悪い状況になったとき、多くの人は諦めてしまいがちだが、光はすぐそばまで届いていることも多い。『夜明け前が一番暗い』という言葉には、『明けない夜はない』という意味も含まれている。本当に苦しくなった時にこそ、光が見えるのかもしれない」
とのことだ。
先行きなんて誰にも分かりやしない。そういった状況は誰もが等しく同じ環境と言える。しかし、置かれた立場は理不尽なものも含め、全く異なるものだ。ただ、一つ言えることは、どこで諦めるかはその人に委ねられているということである。諦めるタイミングを決められるのは本人でしかないし、それは本人に与えられた人生における決定権だ。どんなに辛く苦しくても、決して諦めることなく這いつくばってでも進み続けることのできる人は、やがていつか光を見つけ報われる時が来るのではなかろうか。