冬・ストーブの香り ~寒さを楽しめる至福のひととき~
唯一の特権
まだ日が昇る前の冬の朝は、一日で最も気温の低下する「起きかけの身体にはいちばん堪(こた)える時間」だが、一方で『冬をいちばんに感じられる時間』でもある。
床に就く前に暖をとっていた部屋にも、キーンと張り詰めた冷気が身を引き締める。
「また、この季節が来たな」と思うと同時に、「寒いからこそ味わえる至福」に心躍らされる。
部屋の中は、まるで外と変わらない気温だ。違うとすれば、風が吹いていないことくらいか。
まだ外も暗い時間に、部分的に部屋の明かりを点け、ストーブに火を灯す。
すると、燃料の香りとともにストーブの中で火が燃え始める。
この季節にしか味わえない楽しみが始まる。そう、『ストーブの楽しみ』だ。
小さい種火からだんだんと大きな炎になっていく様も、体感的に暖かくなっていくのが趣だ。
燃料は、灯油。ストーブを点火したときにだけ感じられるほのかな香りがたまらない。
この瞬間は、ストーブに火を灯す時にだけしか嗅ぐことができない、唯一の特権だ。
自分だけの憩いのひととき
人類はもとを辿れば、火を使いこなすことで様々な文明を開拓してきた。
ひとつの火を囲むことで、暖を取り、互いのつながりを深めてきた。
冬に食卓を囲む鍋もその名残(なごり)なのだろう。
「同じ釜の飯を食う」という言葉も、食をともにすることで結束を強めた言われだろう。
お風呂や温泉に入って体を温めると、ぽかぽかして気分も落ち着く。入浴剤を入れればリラックス効果も得られて、体だけでなく脳の休息にもなる。
そんなひとときには、つい『火の神様』に感謝をしてしまいたくなる。
そして、そんなふうにして入るお風呂は「心もあったまる」気がする。
日常の殺伐とした状況では、なかなか難しい場面もあるかもしれないが、そうした自分だけの時間には『ちょっとした憩いのひととき』を大事にしていきたい。