【実食レポ】宝餅本舗「こっぱもち」 ~熊本名物~

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秋も真っ只中の11月上旬。朝晩はとくに日一日と冷え込みが厳しくなって、確実に冬へ近づいていくのを肌で実感する季節だ。朝の寝起きは布団の温もりが一段と恋しくなるのもこの季節ならではだろう。

一枚羽織るものが欲しくなる秋空の下、食べたくなるのが焼き芋だ。さつまいもはこの時期とても重宝する万能の一品。味噌汁に入れて煮ても良し、大学芋のように揚げても良し、そして焼き芋。焼いても良しだ。なんにでも活躍できる優れものでありながら、おまけに身体に良いときている。申し分ない一品だ。

さつまいもを使ったお菓子も多くある。言わずと知れた保存食、芋けんぴが有名だろう。洋菓子部門ではスイートポテトも主役級の座に君臨する名スイーツだ。素材自体に自然な甘さを持ち、さまざまな料理やお菓子のメイン素材にもなるさつまいもは、大地がもたらしてくれる秋冬の贈り物のようにさえ思える。そんな多くの楽しみ方があるさつまいもだが、さらにもっと探ってみたい。

郷土の味をいただく

さつまいもと言えば、鹿児島が有名な産地だ。収穫量はだんとつの28万トンで全国1位だ。2位の茨城が17万トンというからその差は歴然である。九州には鹿児島以外にもさつまいもを使った名物があちこちにあるようだ。地元の名物を探して辿り着いたのが鹿児島に隣接している熊本だ。

お土産売り場にどーんと鎮座する商品がひときわ目についた。

「こっぱもち」である。

それは、中身が見えるよう断面をカットされたお土産のサンプル品や、こぎれいな包装でラッピングされているほかのお土産とは一線を画している。無駄に飾ることなくありのまま中身をさらけ出しているその透明ラッピングの佇まいは、ある意味自信に満ち溢れているようにも見える一方で、ほっとするやさしさをも感じ取れる。

実際に購入してみる。価格は1本594円。お土産品にしては高過ぎず安過ぎずなお手頃価格で、もらった方も気を遣わずに受け取れる感じがいい。自分用のお土産としても負担ない価格だ。昔ながらの味を想像させる素朴なデザインも安心感を与えてくれる。無添加・無着色なのも嬉しい。さらには、熊本県観光土産コンクール入賞作品、と書いてある。くまもんのロゴが付いているのも、より熊本感を演出している。

込められた作り手の思いをいただく

まずは、その飾ることなく親しみやすい「こっぱもち」という名称を調べてみたい。こっぱとは熊本県天草市では「細かくする」という意味で使われているとのことだ。たしかに、こっぱみじんにする、などという言葉を見聞きしたことがある。さつまいもを茹でたあと、皮を剥いて細かく輪切りにし、藁に通して天日に干して、さらにそれを搗き立ての餅と混ぜて作られるようなのだが、こっぱもちとはその製法から名付けられたようである。さつまいもは干すことで水分が少なくなって甘みが凝縮する。これだけでも十分美味しそうだ。そして天日に晒されることでデンプンが分解されて麦芽糖という甘みに変化するのだ。まさに理に適った先人の知恵であり、自然の保存食として作られた努力研究の賜物だ。

さっそく実際に食べてみたい。だが、早る気持ちを抑えてまずは裏面も確認しておこう。

原材料は、甘藷、餅米、上白糖のみ。甘藷とはさつまいものことだ。じつにシンプルな原料で作られているからこそ、期待が高まってくる。素材の扱い方や製法など、ごまかしがきかないからだ。もっと言えば、作り手の心も現れてしまうほどにシンプルな構成だ。おいしい召し上がり方として、2センチくらいに輪切りにしてお召し上がりください、と書いてある。

シンプルなデザインの包装を開けてみると、薄いラップのようなもので包まれている。こっぱもち自体はずっしりと重みがあり、感触はやや弾力がある。傷つけないように丁寧にラップを剥がしていくと、さらにもう一枚薄いラップで包まれていた。そしてその薄いラップを一枚目よりもさらに丁寧に剥がしていくと、つるんとした艶があるこっぱもちが現れた。期待通りの登場だ。おいしい召し上がり方の指示通り、輪切りにしてみた。

熟成したような色艶だ。一枚食べてみる。

しっとりとしていて若干の餅の食感もある一方で、思ったほど重い食べ心地ではなく軽い口当たりだ。甘すぎずに程よい味わいなのも想像通りの安心感がうれしい。それと同時に、口に入れて噛んだ瞬間、似たようななにかを食べているようでもあった。そう、干し芋だ。それも甘味がしっかりとあって、しっとり感のある高級な干し芋。スーパーなどで売られている干し芋は、どこかしっとり感がなく固かったり、甘みが薄くぼそっとしていたりする部分が混ざっていることがある。それはそれで、さつまいものあらゆる部位を楽しめる味わいもある。

しかしこのこっぱもちは、全体が均一にしっとり甘くてどこを食べても美味しい。これは嬉しい。賞味期限も2か月ほどと長いのもまた嬉しさを増幅させる。自分でも作ってみたい思いにも駆られる。むかしの田舎の家庭では毎年作られていたそうなのだが、近年はその数も減ってこうしてお土産品として老舗企業が製造をしているようだ。

人生を味わう

このこっぱもちを作っているのは有限会社宝餅本舗という熊本県天草市にある昭和63年設立の会社である。こっぱもちは他に紫芋でつくられたものや、黒糖味の種類もあるようだ。

宝餅本舗のホームページを見てみると、ここでも美味しい食べ方の案内が載っていた。そのままでも、もちろん美味しく食べられるのだが、ほかの食べ方としてはレンジで温めると搗きたての感じを味わうことができるようだ。また、さらにはきな粉をまぶしても美味しいとのこと。そしてさらには、油で揚げてもまた異なる味わいを楽しむことができるようだ。フライパンにバターを引いて焼いても、美味しいとのこと。いろんな食べ方ができるのは飽きずに食べられるし、なにより楽しい。

素朴な味わいだからこそ、いろいろにアレンジができる。シンプルなものにこそ真の美味しさや幸せが隠れているのかもしれない。人生も同じなのだろう。なにげないことや一見すると地味だと感じることに真の幸せがあるのかもしれない。こっぱもちという昔ながらの食べ物に生き方のコツを教わった気がする。

またひとつ地元の素晴らしい一品に出会えることができた。

NORTHMAN

趣味:煎餅(米菓)の食べ比べ 得意なこと:ひとり遊び 愛読書:JAF MATE 好きな食べ物:季節全般のフルーツ

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